遺留分侵害額請求で、不動産を取得したい?
相続はじめに
遺留分侵害額請求は、特定の相続人が、侵害された相続分について、最低限保障される相続財産確保の制度です。
たとえば、妻と子供がいる方が、「財産すべてを妻に相続する。」という遺言を残して亡くなった場合、相続人間で不公平が生じることになります。このような場合に、子供は、侵害された相続分の一定割合について請求できる制度である「遺留分侵害額請求」ができます。
2020年の民法改正により、遺留分の請求は、基本的に金銭での支払いによって行われるようになりました。しかし、金銭ではなく住み慣れた家など、特定の財産を取得したい場合、交渉次第では柔軟な対応も可能です。
このような交渉は、たいていの場合、当事者間では困難で、法律事務所に委ねるのが解決の早道です。
遺留分侵害額請求ができる相続人とは
また、遺留分侵害額請求ができる割合は、相続人の構成によって異なります(民法1042条)。
被相続人の父母(父母が亡くなっていたら祖父母)
法定相続分の3分の1
上記以外の相続人(配偶者・子供(被相続人より先に子供が亡くなっていたらその子供)
法定相続分の2分の1
※ 他に相続人がいる場合は、各法定相続割合を前提とします。
※ 兄弟姉妹には、遺留分侵害額請求権はありません。
具体的な遺留分侵害額請求方法
遺留分侵害額請求を行う場合、通常は金銭での清算となりますが、家や特定の財産(高額な絵画や骨とう品など)を引き継ぎたい場合、他の相続人との交渉で譲渡を求めることが可能です。
家を譲り受けたい場合の、具体的な方法をみていきます。
1 家の市場価値と遺留分の金額を比較
まず、家の市場価値を確認(通常、不動産会社に査定をしてもらいます)し、それが遺留分に相当する金額か、それを超えるのかを把握します。市場価値が遺留分の範囲内であれば、その家を引き継ぐ形での遺留分の支払いを提案することが理にかなっています。
2 相手との合意を目指す
家を欲しい理由を明確にし、感情的な訴えも含めつつ、相手に譲渡を交渉します。金銭による清算ではなく、不動産としての相続を希望することを明確に伝えましょう。家に対する愛着や、引っ越しが困難である点を強調するとよいでしょう。
3 家を譲り受けた後に差額を金銭で支払う提案
もし家の価値が遺留分の金額を超える場合、その差額を金銭で支払うことを申し出るのも有効な交渉手段です。
具体的事例
事例1:自宅を残したい場合
母親が亡くなり、長男にすべての財産を譲る旨の遺言が残されました。次男が遺留分侵害額請求を行いましたが、次男が住んでいた実家がほしいと希望しました。長男と交渉し、次男が実家を取得し、代わりに長男には差額を金銭で支払うことで合意しました。
事例2:金銭清算の代わりに、不動産を取得する場合
父親が亡くなり、全財産を長男に譲る遺言を残しましたが、長女が遺留分侵害額請求を行った。侵害額を払うのではなく、侵害額相当額にあたる別荘を長女が相続することで合意しました。
事例3:不動産の共有を回避するために売却する場合
相続財産は不動産のみであり、長女が相続し、妹が遺留分侵害額請求をしました。姉妹間で家を共有することは避けたいと思ったため、不動産の売却を提案し、売却金額を双方で分配する形で解決しました。
家や特定の財産を取得するためには、相手方との合意が必要ですが、まずは家の価値と遺留分侵害額の関係を整理し、交渉の余地を探ることが重要です。
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